雑穀 Millets
現地調査と栽培試験・実験、および幅広い文献を参照して、下記の著述をまとめています。
『日本雑穀のむら』  『雑穀の民族植物学ーインド亜大陸の農山村から』 


雑穀は、8500年前から人類の文明を支えてきました。今日でも、雑穀類は半乾燥地や丘陵地で栽培され、重要な食糧兼飼料になっています。光合成効率の良いC4植物で、環境耐性が強いからです。地球温暖化や砂漠化が進むと、農業に重大な支障が出ます。低地での居住も困難になります。また、急増する人口に対応して、食糧の確保を図るには乾燥に強い雑穀類を、新しい視点から再評価すべきです。これらの植物は人間の食料となるほか、家畜の飼料にもなり、優れた環境共生系を形成しています。さらに日用生活用具に加工するなど多彩な利用法もあります。

日本では、アワ、キビ、ヒエ、モロコシ、シコクビエ、ハトムギなどが今でも各地で、量は少ないですが、伝統的に栽培されて、調理されています。自然食のお店ばかりでなくスーパーマーケットでも、健康に良いとのことでよく売っています。ヨーロッパの国々でもキビやアワは伝統食ですから、マーケットで売っています。これらには伝統的な多くの調理法のほかに、最近では新しい調理法も創意工夫されています。

日本では60年ほど前から雑穀類の栽培が急減して、今日では栽培植物でありながら絶滅が危惧されています。第2次世界大戦中は多くの人が雑穀によって命をつなぎました。自給率の極端に低い日本の食糧安全保障の一角を支えるのは雑穀類です。世界各地の、新石器時代以降の農耕文化を基層で支えてきた雑穀類とこれらをめぐる環境文化を継承しましょう。現世代で失われた作物にしてはならないと思います。

 山村の過疎、高齢化は最終段階に至り、伝統的な雑穀栽培者がごく少なくなっています。多くの伝統的農家から大切に保存されていた雑穀在来品種の分譲を受けて、施設保全を行っています。しかしながら、日本ではこれまで生物多様性条約やアジェンダ21に対する研究者や行政担当者の関心が低く、特に雑穀に関してはほとんど研究対象とされてきませんでした。

日本および世界中の雑穀類在来品種の収集と保存を1972年から30年以上にわたって行ってきました。しかしながら、現地保存の困難さと同様に施設保存の困難さに直面しています。 2011年には、東日本大地震が起こり、大学の種子貯蔵庫も計画停電にさらされましたので、急遽、基礎的な種子はイギリスの王立キュー植物園に移管しました。残りの種子はトランジッションタウン藤野のローカルシードバンクに委譲しました。

  
将来の保存のための方法を求めて、世界各国の種子保存施設および現地保存の状況を見て回りました。2003年にはカナダとアメリカ合衆国に行きましたが、アリゾナでNative Seeds SEARCHというとても優れたNPOにめぐり会い、もちろん会員になりました。この会はインディオの人びとの種子を2000系統も独自に保存し、増殖しているのです。NPOでもこれほどまでにローカルシード・バンクを維持できるのなら、この方法も検討してみるべきです。このことは生物多様性条約締約国会議第10回(名古屋)において、市民の意見として提案しました。